校長あいさつ
「こんばんは」「アンニョンハセヨ」そんなあいさつで夜間学級は始まります。「生徒さん」(教職員よりも人生の先輩である人たちへの敬意もこめてこう言っています)の平均年齢は60代後半。戦後も続いた混乱期にさまざまな理由で義務教育の機会を奪われ、その後も苦労を重ねてようやく学びの場に集うことができたという方、中でも韓国・朝鮮にルーツをもつ方々が多く在籍しています。小学校にも通っていなくて、文字を学んだことのなかった方もおられます。本校夜間学級開設から十数年が経過しても、「知人に聞いて初めて知った」「夜間学級のことは知っていたが家族の介護で行けなかった」といった新入生が毎年おられるのです。
生徒さんが学校にやって来るのは早い人で4時半頃から。毎週木曜日には朝鮮文化研究会に参加する生徒さんが4時前に集まってきます。始業は5時半。平日の夜、8時50分まで、クラスごとに違う授業内容での学習が続きます。
もちろん、夜間学級は生徒さんがいる時間帯だけ活動しているのではありません。昼間のうちに教材づくりや授業の工夫や時には家庭訪問も行ったりして、生徒さんの学習活動を支えます。事務的な処理も昼の間にしかできないことがたくさんあります。入学相談に来られる方もあります。
苦労を重ねてきた人たちだからこそかもしれませんが、普段、学校での生徒さんたちは底抜けに明るい。運動会でゴールしたら嬉しくて先生に抱きついたり、文化祭(「わくわく広場」と名付けています)や芸術鑑賞で自然と踊り出したり、休憩時間には笑顔や笑い声があふれていたり…… 皆さんが「学校は楽しい」と声をそろえます。しかし、作文発表や人権学習・昼の生徒たちとの交流会などで自分のことを語り始めると、思わず涙がこぼれます。聞いている者は一緒に泣いてしまうことしかできないのが、もどかしい限りです。こんな夜間学級の生徒さんたちは、存在そのものが宝物であり、昼の生徒たちにも学びの姿勢や優しさなどで少なくない影響を与えています。義務教育を求める人たちがいる限り、夜間学級の灯はともし続けねばなりません。