今日の一言 4月23日 抜き書き2 夢十夜
- 公開日
- 2020/04/23
- 更新日
- 2020/04/23
校長雑感 一隅を照らす
第一夜
こんな夢を見た。
腕組をして枕元に坐すわっていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。
・・・(中略)・・・
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標(はかじるし)に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」
自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。
「日が出るでしょう。
それから日が沈むでしょう。
それからまた出るでしょう、
そうしてまた沈むでしょう。
——赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、——
あなた、待っていられますか」
自分は黙って首肯いた。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。
「百年、私の墓の傍そばに坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
自分はただ待っていると答えた・・・。
・・・(中略)・・・
真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った。そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻せっぷんした。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。
引用:「夢十夜」夏目漱石(新潮文庫より)
* * *
この内容は、子どもたちには、難しいかもしれませんが、子どもも大人も関係なく「こんな夢」をみているにちがいない・・と思います。
読むたびに 夢の世界がありありと浮かびあがります。