学校日記

今日の一言 3月8日 「自分の物差し」持てる子に

公開日
2023/03/08
更新日
2023/03/08

校長雑感 一隅を照らす

2014年12月、上町台地の地方情報誌【うえまち】にインタビュー記事が掲載されたことがあります。→http://www.machi-sumai.com/_userdata/uemachi/pg419.html

今考えていることと、ほとんど変わっていないことに驚いたり、ぶれない軸を持つことの大切さを思ったりしました。

* * * *

 4月1日付で大阪市の民間人校長として桃陽小学校に着任しました。「毎日が感動」の日々を送っています。それまで通算27年間ドイツで暮らし、今年1月に帰国しました。東京芸術大学でオーボエを専攻。その後渡独したのですが、耳の病気になり音楽から離れました。一般企業を経て、「ミュンヘン日本人国際学校」の理事兼事務局長として10年間勤務し、今日に至っています。

——なぜ民間人校長になろうと思われたのですか。

「日本の教育は世界に通用している。本質的なところは変えてはいけない」という思いが募ってきたからです。私が強く影響を受けたのは、新渡戸稲造は著書『武士道』です。
≪日本人の行動規範の基は武士道にあり、西洋でいう騎士道にあたる≫
『武士道』で語られる「仁・義・礼・忠・孝」。この規範意識は、新渡戸の時代から現代の日本の教育に至るまで引き継がれているのではないだろうか。そう考えるようになっていました。長く在外で生活している日本人の中には、日本にいる日本人よりも日本人らしい人がいます。こういう日本人はドイツでも高く評価され、尊敬されています。

東日本大震災も大きな契機となりました。ご存知の通り、地震と津波に襲われたときの日本人の対応は高い評価を得ました。一方、原発の対応では「日本人の価値観や意志が見えてこない」と疑問の声が聞かれました。

 「自分の考えや意見を持っていない人とは話す意味がない」とヨーロッパ人は考えます。誰かの価値観を受け売りするのなら、その人とではなく他の人と話せばいい。自分しか言えないことを、みんなが理解できるやり方で表現することを求めるのです。
 将来、国際的に活躍することを求められている子どもたちは、この弱点を克服しなければならない。その取り組みは、義務教育の早い段階で始めるべきだと考えました。

——日本では「世間」というものが自己判断の基準になりやすい。外国から日本を見たからこそ、そんな特徴が際立って見えたというわけですね。

 おっしゃる通り、子どもだけではなく大人も、「世間」という「物差し」を持たされることに慣れてしまっているのかもしれません。文部科学省は学習指導要領の中で、変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力は「生きる力」だとしています。求められているのは、自分で考え、意見を持ち、それを表現し実行するパワーです。

 ——実際の現場に身を置き感じることは。

感銘を受けたのは、大阪市教委や教職員の取り組みです。「他の全てのことより、子どもたちのことが最優先される」ことが徹底されており、3か月の研修で私もたたき込まれました。実際に先生方はこれを実践し、「生きる力を養うこと」に軸足をしっかり置いています。着任以来、私は毎日子どもの成長を目の当たりにしてきました。冒頭の「毎日が感動の日々」とはこのことです。


 ——学校のグランドデザインの一つに「公立学校の新たな価値の創造」を掲げています。

 子どもたちは美しさを感じ取る力を持っていると信じています。
「子どもだから未熟で高尚なことは理解できない」と私たちは思い込んではいないでしょうか。先日の公開授業で作曲家の宮川彬良さんを招いたのは、音楽家の中でも≪超一流≫である彼との出会いで、子どもたちが必ず何かを感じてくれると信じていたからです。
 私とは比べることなどできない才能の持ち主や偉大な精神を持った人が桃陽小の子どもたちの中にはいるに違いない。そういうリスペクト(尊敬の念)を念頭に置き、子どもたちが一流に触れることができる学校環境を目指しています。

 ——日本の教育の良さを認めつつ、学校の常識を変えたいという思いが伝わってきます。

 「今の子どもたちの65%は、現在ない職業に就く(米・キャシー・デビッドソン)」とも言われます。「変化する社会に対応する力」を身に付けても、時代の波には乗れないかもかもしれません。「社会を変化させる人」「時代の波を作る人」が求められていると予感しています。